Classiques japonais avec furigana
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ゆびわ
指環
田中 貢太郎
Lisez 指環 (ゆびわ) de 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 4 002 caractères · 9 écrans
八畳ばかりの何も置いてない室ががらんとしている。頭の往った方は床になっているが、そこも亀裂の入った黄ろな壁土が侘しそうに見えるばかりで、軸らしい物もない。見た処どうしても空家としか思われない。電燈の点いたのは、借家人が引越した時に、スイッチを切らずにそのままにしてあったのが、故障のために消えていて、それが何時の間にか点いたのであろうと思った。
戸外には物のうみ潰れるような雨がびしょびしょと降っていた。彼はいよいよ空家と云うことをたしかめたので、安心して横になって駒下駄の枕に頭をつけた。暖な空気のふわりと浮んだ夜であった。彼は病気だと云う父親のことを考えだした。古い古い家の奥の間で、煙草の脂で黒くなった二つ三つ残った歯を出して、仰向けに寝ている父親の姿を浮べた。
その時物の気配がした。それは咳とも何んともつかない物の音であったが、どうも人の気配であった。苦学しながら神田の私立大学へ通って法律をやっている彼は、体に悪寒の走るのを感じた。平生の疏放から他人の住宅へ侵入した結果になり、その上強窃盗の嫌疑をかけられてもしかたのないようになった己の所業を恐ろしく思った。