Classiques japonais avec furigana
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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Lisez 新書太閤記 (しんしょたいこうき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 190 406 caractères · 381 écrans
二条の濠が見えた。一ノ橋を越えると、もう町屋も平屋敷も、一軒もなかった。きれいな小松原の間に、折々、白壁や宏壮な門の見えるのは皆、今川一族のなにがしの支度邸か役所であった。
「おお。三河殿ではないか。――元康殿、元康殿」
城地を繞る広い小松原は、戦時には武者揃いの広場となり、平時は縦横の道筋がそのまま馬場に用いられていた。手をあげて今、小松の陰の横道から彼を呼んだのは、臨済寺の雪斎和尚であった。
太原雪斎は、
「お出向きか」
云いながら歩み寄って来た。
元康は、あわてて馬を降り、いんぎんに礼をして、
「禅師にも、こよいは御苦労に存じます」
「会状、いつも急で、其許などこそ、大儀でおざる」
「なんの」
雪斎は、供ひとり連れてはいない。巨きな体につりあう足を、うす汚い藁草履にのせて歩いているのだった。
元康も、共に歩み出したが、師礼を執って、肩は並べないように、また、ここまで騎って来た駒も、榊原平七に口輪を取らせて、騎ろうとはしなかった。
「ことしもまた、秋とはなったなあ」
師の呟きを、耳にしながら、元康はことばに現わせない感謝を、ふとその人へ抱いた。
幼少から他国の質子として在る身を、ひともわれも、不遇とはいうが、深く思えば、この太原雪斎の薫陶を得られただけでも、不幸はかえって大幸であったかもしれない。