Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
久慈は順次に見て歩くままに真紀子と放れていったが、ときどき真紀子の方を振り返ってみた。そして、彼は一度真紀子を見る毎に、壁面の絵を見るのと同様に彼女の姿をも眺めている自分だと思い、ただこうして人を見ただけのことを絵に描くとすると、これほども苦心をするものかとまた画の難しさを考え、連った二室のうちの一番奥の有名な浴みの絵のかかった部屋へ這入っていった。
久慈の見たのでは、このセザンヌの晩年の東洋画のように渇筆を用いた画面には、もうそれから以後の人人の迷いくらんでゆくような、絵画上の手法の乱れる徴が顕れているように感じられた。前の二室に満ちているそれぞれの絵には、対象に集中された精神に簡略された軽さがどこ一点もないのに反し、最後の浴みには、未成品とはいえ画面の構図と線にいちじるしい精神主義が顕れ、も早や現実に倦怠を感じた画家の抽象性が際立って見えていた。それはまことに嫋嫋とした美しい線と淡彩から成っていて、カンバスの生地の色もそのまま胡粉の隙からいちめんに顔を出し、それが全体の色調の直接な基準色ともなり変っていた。
久慈は鼻を浴みのカンバスに喰つけるようにして油の匂いまで嗅いでみてから、三室を幾回となく歩いた。