Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
暗くもなく明るくもない光線に満された部屋の中には、絵や人を不必要に威圧する壮厳さもなく、観るものの心を動揺させる不自由さもない。初めの間、彼はふと外へ出ていってまた観に這入りたくなるような、気軽な気持ちで画面を眺めているうちに、だんだんセザンヌのその絵にさえ特種の美しさの何もない単純化に気がついて、「おや。」と思った。それは求め廻っていたものが、ほのかに顔を赧らめつつこっそり傍を通り抜けていく姿をかい間見た思いに似ていたが、次の瞬間、
「これはッ。」
と久慈はベンチに腰かけたまま無言だった。とにかく同じ驚きが一回廻るごとに、ごそりごそりと底へ落ち込んで来るような得体の知れぬ感動だった。彼はもう何んの想念も泛んで来なかった。まったくいつもとはどこも変った顔ではなかったが、内心彼は愕然としていた。今まで日夜考えつづけていたことは何んだったのだろうと思い、ここまで来てただこんな単純な美しさに愕いたとは、何んという脱けた自分だったのだろうと思って歎息するばかりだった。
「マルセーユで見た景色とそっくりのあるのね。あの海の絵ね。横の山もそうだわ。」
真紀子は巻いた目録を唇にあてながら久慈の横のベンチへかけて云った。