Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lisez 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 149 813 caractères · 302 écrans
唯……九年も前の、それも唯一度の接吻(キス)が残った……
時が経てば経つほど、あの花弁(はなびら)のように開いた清い口唇(くちびる)は活々(いきいき)として記憶に上って来た。何処へ行って、何を為ても、それだけは忘れられなかった。ある時支那の方に居る友達が集って、互に身上話などを始めて、一体山本さんはどうしたんだと言出したものが有ったら、その時彼は自分の一生は片恋の連続だと真面目顔(まじめがお)に答えた。それが一つ話に成って、それから山本さんのことを「頭の禿げた坊ちゃん」と、皆なで言って笑うように成った。そうだ、山本さんは最早二十六にも成る人妻を九年前と同じように眺めて、何を待(まつ)ともなく、南京虫の多い旅舎の床の上に独りで寝たり起きたりして来たのだ。
今度の東京の旅舎では、山本さんは実の妹ばかりを待受けているのでは無かった。産後の養生かたがた妹に随(つ)いて、寒い方から暖い方へ出掛けて来るというお新をも一緒に待受けた。
妹のお牧はお新と一緒に翌日(あくるひ)着いた。夕方には二人とも山本さんの旅舎(やどや)で、お牧の方は流行後(おく)れの紺色のコオトを脱ぎ、お新の方は薄い鼠色のコオトを脱いだ。