Classiques japonais avec furigana
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すてるかね
棄てる金
若杉 鳥子
Lisez 棄てる金 (すてるかね) de 若杉 鳥子 (わかすぎとりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 2 286 caractères · 5 écrans
彼女は暫く其処に佇んだ。物寂びた森閑とした境内に立っていると、失業だ飢餓だ住宅難だと渦巻いている世の中が段々遠くへ霞んでいってしまいそうな気がした。
本堂の暗い仏殿の奥には、何やら黒い木像らしいものが安置されてあった。
そして本堂の次の広間には、造花だの火鉢だの蒲団だのという死者の土産物が並んでいた。その上の長押にはまた広告ビラのように無数の紙片が貼りつけてあった。各壇家が競争的に寄附したものと見えて、万にも千にも近い金額や姓名が記されていた。
中には金でなく株券や田畑を寄附している者もあるが、それも金額の高低の順に貼り出されてあるらしかった。
彼女は其処から二三度案内を乞うたが、香の匂いが深くたちこめているだけで人影もなかったので、更に本堂の右手に見える住職の住宅であるらしい、大きい玄関の前に立った。其処ではラジオの拡声機が長唄か何かを放送していた。
「御めん下さい」
彼女は三四度声をかけて見たが、奥迄はその声が徹らないらしかった。色々の調子を変えて呼んで見た。すると奥から衣摺れの音がして三十格好の梵妻らしい粋な女が出て来た。が、女は彼女の服装を下から上へと逆に一瞥しただけで玄関の突き当りの電話室の硝子戸の中に入ってしまった。