Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
くすのきのはなし
楠の話
豊島 与志雄
Lisez 楠の話 (くすのきのはなし) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 820 caractères · 22 écrans
誰一人動く者もなかった。深い沈黙と影とが皆の上に蔽い被さっていた。その真中に、苔生した楠の幹を背景に、父の姿が地からつき立ったようにして浮んでいた。その眼はじっと地面に据えられていたが、広い額は空の方を向いていた。私はそれほど荘厳な父の姿を見たことはなかった。否それほど荘厳な人間の姿を見たことはなかった。私は殆んどそれが自分の父であることを、あの病み衰えた父であることを、忘れようとした。
楠の葉が一枚ひらひらと舞い落ちた。そのために一層沈黙の度が深くなった。それと共に、私の心に或る恐怖の念が萠しかけた。今にもその沈黙が破れたら、大変なことになりそうな気がした。
その時、見知らぬ人々の群の方から、一人の年取った男が立ち上った。私は思わず楓の後から駈け出そうとした。然しすぐにほっと安心した。男は父の前に丁寧に頭を下げた。それから彼は何か暫く饒舌った。すると父は二、三言それに答えたらしかった。声は私の所まで達しなかった。
男は父の答えをきいて、仲間の者等の方へ向いて屈んだ。皆その方へ寄って行った。そして彼等は相談を初めた。
暫くすると、前の男がまた立ち上って父に何か云った。