Classiques japonais avec furigana
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たなださいばんちょうのかいし
橘外男ワンダーランド 怪談・心霊篇
橘 外男
Lisez 橘外男ワンダーランド 怪談・心霊篇 (たなださいばんちょうのかいし) de 橘 外男 (たちばなそとお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 112 181 caractères · 219 écrans
「何をそんなに弾いているんだね?」
「さあ、わし共にゃサッパリわからねえでがすが」
と爺やは歯のない真っ黒な口をあけて笑いました。
「旦那様は譜をお作りになるでやして……それでピアノをお弾きになるでがす」
「へえ、棚田さんがねえ――」
と相槌は打ちましたが、もちろん私にも音楽の趣味も何もあったものではありません。ただ裁判長として、松島事件を裁いた厳めしい人の隠れた一面を覗いているような気がして、頷いただけでした。
「せっかくお訪ね下せえやしても何のおかまいもできましねえで……お上がんなすって、お茶の一つも上がって下さりゃ、旦那様もお喜びになると思うだが」
勧める老爺に別れを告げて、やがて私はまた竹藪に沿うた坂を下って、田圃の傍の庚申塚のある道や、子供の頃笹っ葉を持って蛍を追い回した小川の縁へ出て来ましたが、立ちどまって振り返って見ると――眠ったような森や石垣の上に、この四、五十年来、何一つ殖えたものもなければ減ったものもなく、相変らず城のような棚田の家を眺めていると、私までが三人の子供の父親でもなければ医者でもなく、まだあの頃の洟っ垂らしのような錯覚が起ってきてならなかったのです。