Classiques japonais avec furigana
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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Lisez 江戸の火術 (えどのかじゅつ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 929 caractères · 36 écrans
武家と武家との縁組は、恐ろしく儀式張ったもので、井上半十郎と繁代は、許婚とは言っても、ほんの二三度行きずりに顔を見ただけ、若い者同士らしく、お互に思いは焦したでしょうが、見合いをしたこともなければ、口をきいたことも無い仲だったのです。
が、似ているというのは、恐らく他人の空似でしょう、繁代の前歯が二本までも欠けている筈はなく、第一、こんな醜い赤痣が、五年や六年の間に、繁代の玉を伸べたような額や頬を冒す筈もありません。
「お静殿」
「ハイ」
「もしや、繁代殿とは言われなかったかな」
「まア、井上様、それは、どなたの御名前でございます」
「いや何んでない」
井上半十郎は盃を置いて、ツイ腕を組んでしまいました。
「繁代――可愛らしいお名前ではございませんか、私が、その繁代だったら、どんなに嬉しゅうございましょう」
静かに行脚り寄って来た女、井上半十郎に寄りそうように、銚子を取り上げました。
「まだ、お酒がございます、お過しなさいまし、井上様」
美しい方の頬を見せて、一方の空いた手は、そっと、半十郎の膝の上へ――湯上の温もりが、着物の上から、熱鉄のように男の肌に通ります。