Classiques japonais avec furigana
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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Lisez 江戸の火術 (えどのかじゅつ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 929 caractères · 36 écrans
私はそれを本当と思い込み、前歯を二枚欠いた上、顔に痣まで描いて、あんな恥かしいことを致しました、それが井上様の御幸福になることとばかり思い込んで――」
繁代の言葉は涙に濡れて暫らく絶えます。
「えッ、止さぬか、女の愚痴だ、俺はもっともっと大きな事を考えて居たのだ」
「それが大それた謀反の仕度とは、どうして気が付きましょう。先頃から出入の人達、――私が井上様から秘巻を奪った後前の手伝い、――腑に落ちないことばかりと思って居りました」
繁代はかき口説き乍ら、一生懸命、兄の手の火縄をむしり取ろうとするのです。
「えッ、退けッ、馬鹿奴ッ、――もう約束の一刻だ」
「兄上、――せめてその謀反だけは思い止って下さいまし、三代に亘る徳川様の御恩、それも忘れて由比とやらに加担したら、父上様あの世でどんなに御歎き遊ばすことでございましょう」
「――――」
「それから、井上様もお気の毒でございます。怨は親同士で果し果された筈、お願いでございます、井上様をお助け下さいまし、兄上、――兄上様、昔のお優しかった心持に返って、この私の為に、井上様をお助け下さいまし、お願い」
兄の首に、胸に、腕に、涙と共に絡み付く繁代は必死の思いでした、が、野心と怨に燃え立つ、兄の喜三郎を止めようはありません。