Classiques japonais avec furigana
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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Lisez 江戸の火術 (えどのかじゅつ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 929 caractères · 36 écrans
お静がそう言い乍ら手を叩くと、予て言い付けてあったものか、宿の女中は精一杯らしい料理と、銚子盃を持って来ました。
「これは?」
驚く井上半十郎の前に据えて、
「まア、御過ごし遊ばせ」
お静は自分で銚子を取上げます。片頬の痣は灯に背いて、半十郎の方から見えるのは、トロリと渦巻く片靨と、水のように澄んだ左の眼だけ、何んとなくそれは、高貴にさえ見える美しさです。
「お静殿は、江戸小石川の生れと言われたが、――小石川ではなくて、若しや、本郷の産れではあるまいか」
半十郎は盃を挙げました。この女の顔――艶やかなうちに潜む、深沈たる美しさと、醜くい赤痣や、欠けた前歯の奥に隠された、一種の清らかさには、どうしても忘れられないものがあったのです。
「いえ、私の生れは小石川の第六天、育ったのは遠州、――まア、そんなに私の顔を御覧になっては」
お静は片袖を眉庇に、痣のあたりを娘らしく隠すのでした。
「ところで、お静殿、――拙者は一人で勝手に頂く、その間に風呂へ入られてはどうじゃ、疲れが直って、飛んだ良い心持であろう」
「井上様は?」
「酒が腹へ入ってから、湯でもあるまい、拙者は止すとしよう、――それに」