Classiques japonais avec furigana
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かいなんき
海難記
久生 十蘭
Lisez 海難記 (かいなんき) de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 28 628 caractères · 56 écrans
六日(漂流第二日目)、狂気のようなものが筏を支配しかけていた。朝の十時頃、鼓笛手の二人の少年兵と中年の製麺麭業者が、
「ちょっと行って、端艇をさがしてきます。すぐ帰るから」
そういって海へ飛びこむと、東のほうへ泳いで行った。間もなくどの頭も水に沈んでしまった。
スイス人の老兵は、麺麭をよこせ、鶏のロチィを持って来いと甲高い声で何時間も絶叫した。ある兵はメデュウズにいるのだと思っているらしく、おれの寝床はどこだと探しまわった。自殺するものも出てきた。後部で十二名、前部で八名、合せて二十名の兵が大西洋の荒海のなかに消えたが、筏の上にはまだ百名以上の人間が居り、わずかな食糧にたいしてこの人数は多すぎた。こういう状態で漂流がつづくとすれば、弱いものは強いものの犠牲にされるだろうという考えが誰の頭にも浮かんだ。
筏には二十名の将校と下士官が乗っていた。漂流の第一日目から自分らだけのブロックをつくり、武器を擁して無言の威圧をしめしていたが、陸兵や下級の海兵のある者は、当然起りうる事態を予想して、将校や下士官の動静を監視するようになった。
夜半からまた海が荒れだした。