Classiques japonais avec furigana
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ちゅうもんちょう
註文帳
泉 鏡花
Lisez 註文帳 (ちゅうもんちょう) de 泉 鏡花 (いずみきょうか) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 33 770 caractères · 67 écrans
どのくらいか臆病づらを下げて、極の悪い思をしたか知れやしねえ、畜生め、己が臆病だと思いやあがって、」と中ッ腹でずいと立つと、不意に膝かけの口が足へからんだので、亀の子這。
じただらを踏むばかりに蹴はづして、一段膝をついて躙り上ると、件の障子を密と開けたが、早や次の間は真暗がり。足をずらしてつかつかと出ても、馴れて畳の破にも突かからず、台所は横づけで、長火鉢の前から手を伸すとそのまま取れる柄杓だから、並々と一杯、突然天窓から打かぶせる気、お勝がそんな家業でも、さすがに婦人、びったりしめて行った水口の戸を、がらりと開けて、
「畜生!」といったが拍子抜け、犬も何にも居ないのであった。
首を出してわすと、がさともせぬ裏の塵塚、そこへ潜って遁げたのでもない。彼方は黒塀がひしひしと、遥に一並、一ツ折れてまた一並、三階の部屋々々、棟の数は多いけれど、まだいずくにも灯が入らず、森として三味線の音もしない。ただ遥に空を衝いて、雲のその夜は真黒な中に、暗緑色の燈の陰惨たる光を放って、大屋根に一眼一角の鬼の突立ったようなのは、二上屋の常燈である。
五助は半身水口から突出して立っていたが、頻に後見らるるような気がして堪らず、柄杓をぴっしゃり。