Classiques japonais avec furigana
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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
Lisez 鉄の処女 (てつのしょじょ) de 大倉 燁子 (おおくらてるこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 20 706 caractères · 42 écrans
夫人は突然、サーカスの例の女の写真と東伯爵夫人の写真を彼に突きつけて、語尾に力を入れて云った。
「貴方はこのどちらかを御存じですね?」
と、男は黙って下を向いてしまった。が、やや間を置いてから、やっと顔を上げてどもるように云った。
「こっちは存じませんけれど――」
とサーカスの女の方を指した。夫人はおっ被ぶせるように云った。
「じゃこっちは知ってるんですね?」
「知っていますとも、可哀想なことをいたしました」
「どうして御存じでしたの?」
「どうして?」
男は夫人と私の顔を等分に見ながら、淋しい笑い方をした。
「智恵子は私の許嫁だった女です。そして現在は弟の妻、東伯爵夫人となっていたのです」
夫人もこの意外な話にはひどく驚いたらしかった、私は片唾をのんだ。
「では貴方は、東伯爵のお足さんだとでも仰しゃるんですか?」
「兄なんです。南洋で虎に喰われて死んだという事になっている兄は私なんです。しかし実際はご覧の通り生きています。弟にとってはたった一人しかない兄弟、血を分けた兄なんですよ」
私達は何が何だか分らなくなった。そう云われてみれば、東伯爵によく似ている。どこかで見たような気がしたのは、彼に似ているためであったのだ。