Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
と。その時、万吉、
「エエッ、この間抜け野郎め!」
自分で自分をドヤシつけるように、ハッと思いついたのである。
縄はある! 縄があった! 縄は目明しの商売道具。肌身離さぬ二丈の捕縄が、チャンと自分のふところにある。
悪党と見れば目明しの縄は、放たずとてひとりでにスルスルと飛びだすものを、人を助けんとする咄嗟には、こうまで血眼に探し廻った最後まで、頭に浮かんでこなかったのである。
ほとばしる火の粉を浴び、紅蓮の大波をくぐり抜けくぐり抜けて――目明しの万吉。
グワラッ! と、大廊下の戸を二、三枚蹴破った。ふウ――ッと巻きだす煙と共に、庭先へ跳び下りたかと思うと、
「お綱あアッ――」
よろめきながら、喘ぐ声! ……。
「しッ、しッかりしろッ。しッかりしてくれ!」
辛くも投げた人助けの捕縄で、焔の底から救い上げたお千絵様であろう――右手には、浄瑠璃人形のように、ダラリとなった女の体を抱き、左に、お綱の帯をつかんだ――。
手をとってやる余裕がない。
だが、お綱はさすがに、気が張っていた。
「――だッ、大丈夫だよッ……」
こう叫んだようである。とたちまち、炎々たる狂い火が、蹴破られた雨戸から大廂の梁を流れて、いっせいに燃えあがり、凍りきっている冬の夜の空へ、カアーッと火柱が立ったのは、それから、ほんの一瞬の後――。