Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
意外や、その墨屋敷は、前の夜の怪し火とやらで焼失したという。
もしお千絵殿の身に異変があったら、すべては水泡に帰してしまうがと、彼の心は気が気ではなくなった。何のために、二度と足をふむまいと誓った江戸へ、急いで帰る必要があるか、弦之丞の奮起はまったく徒労にならねばならぬ。
そうだ、かれは江戸へ帰るべき筈の人でなかった。終生、旅で暮らそうと誓っていた弦之丞である。銀五郎が死の刹那に、ああまでの熱と侠気とを見せてすがったればこそ、では――と、お千絵様のために、かれの意思をついで起ったのだ。でなければ、まだ五年も十年も、いや、あるいは死ぬまでも、一管の竹にわびしい心を託して普化の旅をつづけて終るつもりであった。
がしかし、神奈川の浦に立ち、品川の海辺に立って、江戸の姿を眺め、だんだんと御府内へ近づいてゆくにつれて、かれはなんともいえぬ愛着をよびさましていた。やはり郷土というものには、母性のような魅力がある。そこには仇があり、迫害があり、うるさい情実や陥穽があるにしても、土地そのものだけには懐かしまずにはいられない力がある。
ではなぜ、そんな親しみのある江戸を捨てたのであろう?