Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
「いけねえ、うっかりすると魅入られそうだ」冗談に目をそらしたが、同時にはッとした色で、
「あ、向うから、また見廻り役人の提灯が来るようだ。ええ、うるせえな」と舌打ちした。
「逃げるなら、私にかまわず行っておくれ」
「なに、慌てることはねえ、支度はあるんだから」と、お綱を手招きして、橋の下を覗いたかと思うと、低い声で、
「三次――」と呼んだ。
返辞はなかったがその代りに、ギーと出てきた剣尖船、頬冠りの男が黙々と動いた。
役方の提灯が来た頃には、お綱と孫兵衛をのせた剣尖船、堀尻を南にそれて、櫓力いッぱい木津川をサッサと下っている。
あがった所は住吉村、森囲いで紅がら塗の豪家、三次すなわち主らしいが、何の稼業か分らない。湯殿から出て、空腹を満たして、話していると夜が明けた。
「――お先に、今夜のお礼をいっておきますよ。わたしたち仲間の紋切形で、仕事をするとその場から、プイと百里や二百里は飛びますからね――お前さんも、たまには江戸へ息抜きにおいでなさいな。本郷妻恋一丁目、門垣根に百日紅があって、挿花の師匠の若後家と聞けばすぐ知れますよ。エエ、それがわたしの化身なの」