Classici giapponesi con furigana
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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
Leggi ある偃松の独白 (あるはいまつのどくはく) di 中村 清太郎 (なかむらせいたろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 132.905 caratteri · 262 schermate
前山の頭は、湯壺にかざす緑樹の梢と重なり合って、ほとんど天を隠そうとする。
これら自然の抱擁の下に、人々は滑らかな湯の波に首を浮べるのもあり、まわりのすべっこい肌の岩に横たわるもあり、又米をとぐ人もあれば、落ち口で洗濯をする者もある。中には高声で歌をうたう手合いもあるが、その声は、さらに高調子の水声にさらわれて、心細くどこかへ運び去られてしまう。湯の質は炭酸泉だから、湯口の岩に備えてある柄杓で、湧き出たばかりのを飲むと、その味はなかなかいい。この湯壺も、これまで大概の年には、大水のため洗い去られて、いくたびか河原になり、この二、三年というもの、ことに洪水が続いたので、あらぬ処に家屋大の岩や流木の類を押流して来て、常に面目を変えているのだそうな。しかしあたりがどんなに変ろうと、穹窿形の大岩壁は小ゆるぎもせず、湯はその裾のどこからか、必ず湧き出て来る、かつて止むことがないと言う。見ると岩壁の一部に、消え消えながら『慶応三卯八月口山奉行辻安兵衛山廻伊藤刑部』などと、おぼつかない墨の痕が残っている。そうした洪水に見舞われたあと、そこへ幾人かが幾日かを費やして、粗末な石畳みの通路を作り、丹念に湯つぼの岩沙をかい出したのが、この人々の群がる浴場なのだ。