Classici giapponesi con furigana
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なんぶのはなまがり
南部の鼻曲り
久生 十蘭
Leggi 南部の鼻曲り (なんぶのはなまがり) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 12.683 caratteri · 25 schermate
開戦後まもなく、フィリッピンに上陸したときは、一分一秒といえども、モオリーのことを考えない瞬間はなかったといってもいい。
七年前、沙港の第二番埠頭で別れるとき、モオリーは、
「私とアメリカの契約は、とても罐詰工場のようなものではない。前金もないし、それにシイズンは長いです」
といった。あの鼻曲りはアメリカの敵と戦うために真っ先に飛びだしたにちがいないし、来るとすればまずフィリッピンだから、かならずここでモオリーに逢うだろうという確信のようなものが、いつもおれの心にあった。
あの小さな樹海のはずれで、たぶん向うの独立樹の下あたりで、こんどこそこんどこそと思いながら進んで行ったのである。
たとえば狭い地隙の曲り角のようなところで、だしぬけにひょいと二人が顔を見合したとしたら、いったいどちらが先に射ちだすだろう。いや、どちらかがいきなり射ちだすのはいい。ニヤニヤしながら顔を見合せているような時間が三十分もつづき、
「ハロオ、ジュタロ」
「ハロオ、モオリー」
「とうとう逢ったな、元気だったかね」
「とうとう逢った。うまくやってるか」
などと挨拶をかわし、それからあらためて銃をあげて狙い合うようなことになるのだとしたら、この世にこれ以上残酷な瞬間はありえなかろう。