Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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かざし

挿頭花

津村 信夫

Leggi 挿頭花 (かざし) di 津村 信夫 (つむらのぶお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 1613 caratteri · 4 schermate

Aozora Bunko

私はさうやつて、幾つの部屋を過ぎて行つたのだらう。そして、それは果して幾つ目の部屋での事であつたか、私は確かに、欄間に描かれた美しい朱色の牡丹を認めた。それが暗闇のなかで、私の足をとどめたのだ。

「――はおきらひ?」

そんな優しい声は、何処からもきこえてこなかつた。それだのに、恰度あの萩の花を少女が髪の上に翳して見せたときのやうに、私の心は、明かにその朱色で描かれた牡丹が不満でならなかった…

とがくしの朝は、樹木の多いせゐか、容易に私の部屋まで陽が射してこなかつた。畳廊下の上を踏んで行くと、私の足音で一つびとつの物が目ざめて行くやうだつた。

洗面所で、私は、むかう向きになつて立つてゐる坊の娘を見かけた。

娘は「お早うございます」と挨拶して、「こちらをお使ひ下さいませ」と云つて一つの洗面器をよこした。他の一つには、娘は水をかへて、竜胆の花をつけてゐるところだつた。

「竜胆ですね」と私が云ふと、

「今朝早く裏山で採つてきたのですが、色がすこし悪くつて」

さう云つてから「お部屋にお活けなさるのでしたら、もつといいのを、越水の原か、牧場まで行く道には、もうたんと咲いて居りますわ」