Classici giapponesi con furigana
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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Leggi 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) di 梅崎 春生 (うめざきはるお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 169.810 caratteri · 345 schermate
訝かしく思いながら、近づいて行った。伏せた姿勢のまま、見張の男は、栗の木の陰に、私の跫音も聞えないらしく、じっと動かなかった。地面に伸ばした両手が、何か不自然に曲げられていた。土埃にまみれた半顔が、変に蒼白かった。私はぎょっとして、立ち止った。草の葉に染められた毒々しい血の色を見たのだ。総身に冷水を浴びせかけられたような気がして、私は凝然と立ちすくんだ。
「…………」
死体が僅かに身体をもたせかけた栗の木の、幹の中程に、今年初めてのつくつく法師が、地獄の使者のような不吉な韻律を響かせながら、静かに、執拗に鳴いていたのだ。突然焼けるような熱い涙が、私の瞼のうちにあふれて来た。
(此の、つくつく法師の声を聞きながら、死んで行ったに違いない!)
片膝をついて、私は彼の身体を起そうとした。首が、力なく向きをかえた。無精鬚をすこし伸ばし、閉じた目は見ちがえるほど窪んで見えた。弾丸は、額を貫いていた。流れた血の筋が、こめかみまでつづいていた。苦悶の色はなかった。薄く開いた唇から、汚れた歯が僅か見えた。不気味な重量感を腕に感じながら、私は手の甲で涙をふいた。
とうとう名前も、境遇も、生国も、何も聞かなかった。