Classici giapponesi con furigana
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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
Leggi 梅颸の杖 (ばいしのつえ) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 15.966 caratteri · 32 schermate
実は、便船のうちに、ひとり悪い者が乗りこんでおりましたから、御老体につけこんで或は、何か御災難がありはしまいかと案じられましたので、老婆心までに、ちょっとおたずね申してみたのです』
山陽は、床几を立って、
『それは、わざわざ御親切に、――して、失礼ですが御所属は?』
『大坂の大塩平八郎配下にござります』
『ああ洗心洞の』
『計らずも山陽先生にお目にかかって、冥加至極に思いまする。御母堂にも、ごきげんよく御滞京を祈ります』
『わけての御好意。まだ拝眉を得ませぬが、中斎先生にも、どうぞよろしゅう』
――立ち去るのを見送って、山陽は、
『さすがだな。やはり大塩の下には良吏が居る。噂はうそじゃない』
と、呟いた。
×
夕刻、八百長の楼上にくつろいで、とにかく、母の落着きをながめた山陽は、初めて、三年ぶりの甘やかな気持に浸った。
父の春水を亡ってから八年になる。自分が母の愛というものを意識してから今日にいたるまで、殆ど四十余年、いまだに広島の屋敷では、孫の余一の嫁が納らなかったり、家事に苦労がたえないでいるらしい。その愛と犠牲の生涯に老いた六十五歳の皮膚を見ていると、山陽はひとりでに涙が眼にたまった。