Classici giapponesi con furigana
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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
Leggi 榎物語 (えのきものがたり) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.519 caratteri · 67 schermate
「お顔を拭いて下さい」と手拭を彼に渡しながら云った、「あたしいまのことはなかったものと思います、どうぞあなたもお忘れになって下さい」
「あなたはそんなにこの私が嫌いなのか」安二郎は濡れ手拭で顔を押えたまま云った、「三年以上も経つのに、ずっと私を避けとおして、いつまでこんなことをしているんです、本当のことを云って下さい、ほかに約束した男でもあるのか」
「その返辞はまえに申上げました」
「私は家を出てもいいとさえ思ってるんですよ」安二郎は手拭を小さくたたみ、自分の膝を見ながら云った、「あなたは越前屋という大きな身代や、店の切り盛りをする力はない、身分が不釣合だと云われる、私はまたあなたのほかに妻を欲しいとは思わない、あなたが本当に越前屋へはいるのがいやなら、私は家を出て自分の店を持ってもいいんです」
さわは答えるまえにちょっと考えた。
「それはいけません」さわはそっと首を振った、「おうちの方がたには親身も及ばぬお世話になっています、私のためにあなたがそんなになされば、あたしは越重のみなさんに恩を仇で返す人でなしになってしまいます」
「私の妻になるよりそのほうが恐ろしいのか」