Classici giapponesi con furigana
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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
Leggi 溺るるもの (おぼるるもの) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 17.690 caratteri · 36 schermate
鏡台の方ににじりよって、鏡でのぞいてみたが……口を開いて指を一本くわえてる自分の顔が、ひどく醜かった。あの人がよく私の後ろからそっと見た鏡の中の顔、そういう時の顔が一番好だとあの人は云っていた。……あの人はどうしてるんだろう。
ばか、ばか、とあたしは自分に云ってやった。そしてなお歯をゆすった。痛かった。痒いところをつねるような痛さから、もうそれを通りこして、頭のしんに響くような痛さになっていた。忘れよう忘れよう、心の底であたしは云った。そして歯をゆすった。何だかしらんが無精に腹が立った。そしてとうとう、力任せに歯をひっこぬいてしまった。
あたしはびっくりした。冷い風が、歯のぬけた跡から吹きこんで、身体中を吹き廻った。そのくせ、熱いきりきりした痛みが、顳のあたりまでのぼってきた。上の平たい根の長い歯を、あたしは懐紙に包んで、鏡台の抽出にしまった。その時気がつくと、口の中が血で真赤になっていた。あたしは懐紙をくわえた。歯の跡が大きな空洞になっていた。身体にも心にも、力の心棒がなくなったようだった。あたしは泣きだした。
男の声がした。言葉は分らなかったが、はっきり声が聞えた。