Classici giapponesi con furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Leggi 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) di 永井 荷風 (ながいかふう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 57.666 caratteri · 114 schermate
それから紙入には翌日の朝大工と植木屋と古本屋とに払いがあったので、三四百円の現金が入れてあった。巡査は驚いたらしく、俄にわたくしの事を資産家とよび、「こんな処は君見たような資産家の来るところじゃない。早く帰りたまえ、間違いがあるといかんから、来るなら出直して来たまえ。」と云って、わたくしが猶愚図々々しているのを見て、手を挙げて円タクを呼止め、わざわざ戸を明けてくれた。
わたくしは已むことを得ず自動車に乗り改正道路から環状線とかいう道を廻った。つまり迷宮の外廓を一周して、伏見稲荷の路地口に近いところで降りた事があった。それ以来、わたくしは地図を買って道を調べ、深夜は交番の前を通らないようにした。
わたくしは今、お雪さんが初めて逢った日の事を咏嘆的な調子で言出したのに対して、答うべき言葉を見付けかね、煙草の烟の中にせめて顔だけでもかくしたい気がしてまたもや巻煙草を取出した。お雪は黒目がちの目でじっと此方を見詰めながら、
「あなた。ほんとに能く肖ているわ。あの晩、あたし後姿を見た時、はっと思ったくらい……。」
「そうか。他人のそら肖って、よくある奴さ。」わたくしはまア好かったと云う心持を一生懸命に押隠した。