Classici giapponesi con furigana
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にじのはし
虹の橋
久生 十蘭
Leggi 虹の橋 (にじのはし) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 15.038 caratteri · 30 schermate
そのとたん身体が自由になり、まだ闇のよどむ部屋の中で、影のようなものがむこうへころがって行くのを、見たような気がした。
それなり深く眠りこんでしまい、はっきりと眼をさましたのは、十一時近くだった。よほど前に出かけたらしく、千代のスーツ・ケースがあるだけで、二人の姿はなかった。
そろそろと照りつけてきた、きびしい陽の色を浴びながら、あさひは姫鏡台の前に坐って鏡に顔をうつしてみた。朦朧たる闇の中の出来事は、夢だったように思われるが、夢でも幻でもない証拠に身体のなかに、昨日までなかったものが加わり、身動きするたびに、思いがけないところがギクシャクする。生理にも精神にも、大変動が起きているのに、顔だけは、昨日のままに白々としているのが、納得のいかぬ気持だった。
「あれがほんとうの営みというものなんだわ」
クリンシング・クリームで顔の寝脂を拭きとりながら、あさひはなんということもなく呟いた。
口惜しいような気がするが、といって不当に侵かされたとも思わない。いつかはかならずやってくるはずのものが、たまたま、昨夜、到着したというのにすぎない。自在に男女の疏通が行なわれる特飲街の習俗の中では、貞操とか貞潔とかいう観念は、かつて生活の仕組みの中に入ったためしはない。