Classici giapponesi con furigana
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にじのはし
虹の橋
久生 十蘭
Leggi 虹の橋 (にじのはし) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 15.038 caratteri · 30 schermate
三
三
フサの手をひいて銭湯から帰ると、あさひは奥の八畳へ手ばやく寝床をのべた。
「疲れますからね……一時間ほど、床にお入ンなさるといいわ」
耳に口をつけてそういうと、フサは白髪頭をうごかして、そうしようかねえと、コックリとうなずいた。
こうなさいといえば、うむ、それがいいでしょうといえば、それがいいと、言いなりになっている手のかからない老人だった。眼の見えないことも、耳の遠いことも、苦にしない。これはこういうものと、自然の成行にまかせ、いつも機嫌よくニコニコ笑っている。
福々とした、おとなしやかな顔だちで、身だしなみがいい。声も深く美しく、むかしのゆたかな暮しが察しられた。両手を膝に置いて、縁端にちんまりと坐っているところなどは、古陶の置物の感じだった。
はじめのうちは、罪の感じに追いたてられ、こんな善良な老人を欺ますのかと、鳥肌のたつような思いをしていたが、食事や寝起きの世話、銭湯へ連れて行って、身体の隅々まで洗ってやるまめまめしい日々をかさねているうちに、フサとじぶんはほんとうの血縁で、もう何年となく、こういう暮しをつづけているようなのどかな気持になり、偽せものだということを、ふと忘れている瞬間があった。