Classici giapponesi con furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Leggi 道標 (どうひょう) di 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 846.457 caratteri · 1672 schermate
女教師と素子とは、機嫌よくときどき笑ったりしながら、いろいろの組合せで発音していたが、ふと、女教師が何かききとがめたような声の表情で、
「どうぞ――もう一度」
と求めた。素子が注意してくりかえしているのは「あった」という字であった。伸子は室のこっちの壁ぎわで、粗末な紙の帳面へにじむ紫インクで書き取っていた。「農民ボリスは、非常に苦悩した。何故なら、彼に富と幸福をもって来る筈だった黄金の水――石油は、彼を果しのないぺてんの中へひっぱり込んだから」ひっぱりこむ、という字がわからなくて辞書をみていた伸子は、デスクのところで、
「何故です?」
すこし怒りをふくんでききかえしている素子の声で、頭をあげた。
「わたしは、三度とも同じに発音したのに」
まだ「あった」が問題になっていた。伸子は、おやおやと思った。柔かいエリときつく舌を巻くエルの区別が出来ない伸子は、駒沢の家でロシア語の稽古をしていた時分、素子に散々笑われた。その素子が、やっぱり本場へくれば、案外エリを荷厄介にしている。女教師はもう一度、そのごくありふれた一つの字を素子に発音させた。こんども黙って不賛成をあらわし、頭をふった。