Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
電話がかかってきたときは、葵はちょうど風呂からあがったばかりのところだった。用事はほとんどひと言ですんだ。が、受話器をもとへもどすと、葵の顔は突然蒼ざめてしまった。
葵がいまきいた声は、まぎれもなく、最初葵に遺産相続の通知をした〈あの女〉の声だった。葵のこころには、また雲のように疑惑がわき起ってきた。しかし……
〈しかし、……そんなことがあろうはずはない。と、かんがえる。……たったいちどだけきいた(あの女)の声を記憶している筈はない。それなのに、どうして久我の声と似ているなどと思うのだろう。たしかにこれは神経衰弱なのにちがいない〉
それにしても、理窟ではない。久我の声は〈あの女〉の声だ。……葵は立ちあがって、鞄へ入れるために久我の服をそろえはじめる。なに気なくそれを振った拍子に、白い封筒がひとつヒラリと床に落ちた。……差出人の名前がない。手がふるえた。手紙にはこう書いてあった。
〈雨田葵君は、絲満が殺害された夜の一時頃、非常梯子をつたって、ひそかに戸外へ抜けだしているという事実があります。これはどういうことを意味するか知りませんが、こういうことを承知していられるのもお便利と思い、ちょっとご注意までに申上げました。