Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
久我にとっては、無為は強烈な生活意志の対象であった。彼がひとりの間は、なるほどそれは彼の精神を開放し、自在に自由美の園を逍遙させてくれたが、結婚してからは、せっかくのアフォリズムも妻を苦しめるだけにしか役立たなくなってしまった。現に彼女は、彼の身勝手な主張のおかげで、二人分の労苦を背負って喘いでいるのである。
ときどきこの自覚が、深いところに昏睡している彼のたましいを揺りうごかす。すると久我は、そのたびにむっくりはね起きて、こうしてもいられないと呟き、あてもなく、セカセカと町を歩きまわるのだった。生活のことばかりではない。どういう事情があったのか、葵は絲満を殺している。なんとかして逃がさなければならないのだ。
二月まえに葵をつれて神戸へ行ったのは、そこで石原らとおちあって、いっしょに上海へ逃走するつもりだったのである。ところが、久我が神戸へ着く五時間前に、石原が名古屋で捕まり、仲間といっしょに上海へ逃げるつもりだったと自供したので、支那へ行く道は全部閉鎖されてしまった。そのうちに神戸にいることも危険になったので、また東京へ戻ってきた。
ひところは、警視庁の捜査一課でも全く匙をなげてしまい、絲満事件はこれで永久に迷宮入りするかに見えたが、最近になって情勢はにわかに険悪になってきた。