Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
そして(あたしは、もうひとりではない)と、うかされたようにいくどもつぶやいた。いま、葵の部屋の薄いカアテンを通して、朝の光がしずかにほおえみかける。
彼女はまだ四時位しか眠っていなかったが、もう充分に寝足りたような気持ちだった。身体のうちが爽やかで、頭のなかを風が吹きとおるように思われた。
葵は、右の腕を頭の下に敷いて、夕方までの時間をどこで暮らそうかと考えた。空には一片の雲もない。青い初夏の朝空。葵は幸福にたえかねて眼をとじた。
だれかが扉をたたく。多分、アパートの差配の娘だろう。それにしても、こんなに早くどうしたというのか……
はいってきたのは、差配の娘ではなかった。
揃いのように、灰色のセルの背広を着た二人の紳士であった。もう一人のほうは厳めしい口髭を貯えていた。
慇懃にスマートに、出来るだけ気軽に話そうとしながら、
「……お手間はとらせませんから、ちょっと、洲崎署までいっしょに行ってください。たいしたこっちゃないんですよ。……ちょっとね。あなたも、とんだかかりあいで、ほんとにお気の毒です」
葵は両手で顔を蔽うと、後へぐったりからだを倒してしまった。