Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
そういうと、机へはしり寄って、ペンの先を軋ませながら、せかせかと手紙のようなものを書きだした。間もなく、二つの封筒を持って鶴のほうへもどってくると、それを渡しながら、
「この茶色のほうを神戸まで持って行くのだ。渡したらすぐ帰ってこい。こっちの白いほうは、行きがけに西貝のアパートへおいて行け。手紙受へ投げこんでおけばいい」
無言のままで立ちあがると、鶴は手早くゴム引のマントを着、頭巾をま深く顔のうえにひきおろした。こうすると、まるで小学生のように見えるのだった。
乾は先にたって戸口までゆくと、また念いりに通りをながめ、それから鶴の肩へ両手をかけて前へ押しだすようにした。
「行ってこい」
ふりかえりもせずに、鶴は雨のなかへ出て行った。
路地の角をまがって見えなくなると、乾は扉をしめて奥の階段の下までゆき、そこで立ちどまったまま、なにかしばらく考えているようすだったが、やがて踊るような足どりで二階へあがって行った。
二十畳ほどの広さの部屋で、その奥のほうにこれもどこかの払下品なのだろう、天蓋のついた物々しい寝台がどっしりとすわっていた。窓のそばに桃花心木の書机がひとつ、椅子がひとつ、床の上には古新聞や尿瓶や缶詰の空缶や金盥……その他、雑多なものが、足の踏みばもないほど、でまかせに投げちらされている。