Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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クルスかんのん

十字架観音

野村 胡堂

Leggi 十字架観音 (クルスかんのん) di 野村 胡堂 (のむらこどう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 13.655 caratteri · 27 schermate

Aozora Bunko

六

「わッ」

最初の血潮が流れました。

「来い」

血振いして構えた青眼、余吾之介の眼は据って、好戦的な興奮が、カッと全身に燃え上ります。

「余吾之介様」

「お秋、楯岡は留守だ、引揚げよう」

二人は何時の間にやら虎口を脱れて、向島の土手を駈けていました。

六

余吾之介はそのままお秋の家へ引返しました。お秋に執着を感じたわけではありませんが、血汐に汚れた手も洗わずに、夜と共に静かに静かに祈っておる鹿の子の許――番場町の清らかな浪宅へ帰る気にはなれなかったのです。

一と休みして起きると、もう、陽は高く、狭い中庭に落ちておりました。

顔を洗うともう酒。

「余吾之介様、嬉しいじゃございませんか」

銚子を取って、お秋の眼が精一杯の媚を含みます。

「何が?」

余吾之介の答は、思いの外の素気ないものでした。

「到頭此処へ泊って下さいましたでしょう」

「――――」

「――――」

「もうどんな事があっても帰しはしません」

お秋はそんな事を言いながら、一脈の物足らなさを紛らしておるとも知らぬげに、余吾之介は、黙って考え込んでばかりおります。

「お秋、山野辺右衛門大夫の寮は何処だ」

「白鬚橋の近所――よく存じております、そのうち折を見て御案内しましょう」