Classici giapponesi con furigana
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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
Leggi 夜の靴 (よるのくつ) di 横光 利一 (よこみつりいち) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 107.056 caratteri · 213 schermate
つづけている無気味さだ。
九月――日
早朝の空を見上げ、雲間から晴れの徴候を見てとると、いつも黙っている清江もひと声、
「もやもやしてるのう。天気だ。」
と云う。しかし、それも間もなくかき曇って来る。
二三日前からの悪天とともに続いて来ている不平が、村をかく苦しみに落した実行組合長の兵衛門に対い、集中して来た。参右衛門の家の炉端に集った貧農組も、口口に彼に悪態をついている。清江の実家の攻撃されているこの苦境を切り抜けようとする参右衛門の苦策は、誰より先に、自分自身が彼を攻撃することだ。妻と村とに絞めつけられた脂肪が、赭黒く顔に滲み出し、髭も伸び放題だ。
「もう死ぬ。もう死ぬ。」
そんな声も、米の無い借り歩き組の主婦の口から洩れて来る。久左衛門の門口や裏口は、こんな主婦たちに攻められ通しだが、今はもう誇張ではない、雨の中の呻きになった「もう死ぬ。」だ。
夜中から暴風になる気配がつよく、ざわめく空の怪しげな生ぬるさ、べとついた夜風が部屋の底を匐っている。眠ってしまって誰もいない炉灰の中から、埋めてある薪がまたゆらゆらとひとり燃え始めた。起きているのはその焔ばかりだ。