Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
生理的にも精神的にもである。朝夕、まばゆい気もちだった。それまではそう身近に知らなかった粘液感を伴う匂いなどに知らず知らず敏感になっていた。のべつ理由のないはにかみに行き会いながら、そのくせ、嫂が義兄にそっとしてみせる一顰一笑を偸み見たり、ぼくの御飯茶碗へ、兄のついでに、御飯を盛ってくれる白い指先へ、特異なよろこびをもったりした。
すべては少年の“性”の変形であったとおもう。本来の芽を嫂の美に促進された性細胞が、複合的にその発育を目ざましくしている事にすぎないのであろう。無自覚な冒涜だが、美しい嫂は、唯、美しい異性としかぼくの眼には見ることができなかった。
そんな意味で、嫂のお八重という人の存在は、わずか半年そこそこでしかなかったけれど、弟のぼくにも、成人への一段を、踏み上がらせていた人だった。
ぼくの眼には、熟れた異性そのものに映っていた嫂も、じつはまだ数え年の十七にすぎなかった。女学校も出たのかどうか。家事向きの事とか、躾とかいったような、女の用意は、ちッとも身につけていた風ではない。朝起きると、湯殿部屋へ入ってしまったきり、なかなか出て来ないのが常例だった。