Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
かえって、父が余りに高瀬氏の人格を悪しざまに恨み罵ったりすると、「でも、あなたのように、腕力であんな真似をなされば、高瀬さんでなくても、誰だって腹を立てますよ。高瀬さんには御恩こそうけた事があっても、恨む筋などは無いじゃありませんか」と、弁護めいた口吻をつい洩らした事もある。
かっとしたのであろう。父は起ち上がるやいなや、母を打ちのめした。足蹴にもした。子供らの眼には永遠に拭き去れない不幸な血相を父は額の青筋にも全身にも描いて見せ、あげくには自分も打ち疲れてセイセイ云いながら仆れてしまった。子供らは、息の音も止まったような母の手を両方から引っ張って台所へ逃げてゆき、泣く泣く冷めたい水を柄杓に汲んで血によごれている母の唇へ持って行った。
要するに、父は世間へ向けられない鬱憤を、母へ向けているようなものだった。という解釈などは、まだつかないぼくであったから、なぜ父は母をこんなにいじめるのか、母はなぜこんな父のそばに居たがるのか、そこが唯、わけも分らず悲しかった。肉親という不思議なきずなは、こんな地獄図を描きながらも、或る日はまたふと、薄い夜具を冬の夜に引っ張りあいながら、肌と肌をからんで、木枯らしの叫びを遠くに、ここの一軒のみが、無上の住み家であるような安けさを暖め合いもするのであった。