Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
そしてぼくは、どうにも、この母のそばを離れる気にはなれなかった。もし家に父だけしか居ないのであったら、たとえ父が後でどんなになろうと、いつでも遠くへ飛び去る小鳥になれたことだろう。その不逞さを、母へは抱けないばかりか、母と一しょなら何でも出来た。母のよろこぶ一笑を買うために、どんな事もやる気になり、それには小さい生きがいみたいなものをすら密かに感じて独り慰めることもできた。
岩亀横町から花咲橋を渡って、高島町の方へ出た河岸ぶちに、大きな立て看板が何屋か分らない店頭に立ててあった。“小間物行商人ヲ募ル。商品貸与。毎日純利一円以上、働キ次第”というような意味のわき文句が書いてあった。
ぼくは毎朝、南仲舎への行き帰りに、それを見ていた。そして、ついに或る折、恐々店へ入って「ぼくに出来るでしょうか」と、訊いてみた。番頭か主人か、思いのほか、親切だった。商品から行商道具一式を貸してあげるので、十五円の保証金が規則だが、君なら特別に十円で貸してあげる。売上げと商品を見くらべて、毎日夕方に精算する。いままで、どこに通っていたかと訊ねるので、有りの儘、南仲舎で日給十四銭をうけていると答えると、そんな程度なら、ぜひこっちの行商をおやりなさい、どんな不馴れでも午前中の売上げで、より以上の利益はきっと得られる。