Classici giapponesi con furigana
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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Leggi 新潮記 (しんちょうき) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 155.541 caratteri · 305 schermate
「秋のようでございますね」
「世の中がはげしくなると気候まで変るようだ」
酌をしながらふと見ると、客の膝の向うに硯箱や短冊などが並べてあり、待っているあいだの手すさびであろう、なにやら書きつけたものが四五枚みえた。読んでみたかったが、客は梅八が眼をつけたと気づくなり、さりげなく取ってみなひき裂いてしまった。
「どうしてお捨てなさいます」梅八は口惜しそうに云った、「なにもかもお隠しなさるばかりですね」
「隠すとは」
「御身分までうかがおうとは思いませんけれど、お名前も知れず、御風懐も見せては下さらないじゃあございませんか」
客はしずかに笑った。そしてそのことには答えずに、舟をいいつけてあるが向島へいってみる気はないかと云いだした。
「お供を致しましょう」
梅八は快く承知した。
客とそと出をすることなどはこの数年まるでなかった。古い義理のある客に誘われても、たいていは断わってきた。自分の生きていた時代が去ってしまい、もはやそういう表立った遊楽は自分の出る幕ではない、そう信じていたからである。……けれども今、このなに者とも知れぬ笛の客だけには、どこへでもいっしょに付き合っていい気持になれた。