Classici giapponesi con furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Leggi 日本婦道記 (にほんふどうき) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 12.841 caratteri · 25 schermate
一
一
「きょうここを出てゆけば、おまえにはもう安倍の家よりほかに家とよぶものはなくなるのだ、父も母もきょうだいも有ると思ってはならない」
父の図書にはそう云われた。母は涙ぐんだ眼でいつまでもじっとこちらの顔を見まもりながら、
「よほど思案に余るようなことがあったら相談においで」
とだけ、囁くように云って呉れた。そして兄の源吾はいつものむぞうさな調子で、
「今夜はとのい番だから残念ながら祝言の席へは出られない、まあしっかりやれ、安倍はたのみがいのある男だ、きっと仕合せになれるよ」
そう云って笑った。
女とうまれた者は誰でもいちどは聞く言葉であろう、そしてどう云いまわしてもありふれた平凡なものでしかないそうした言葉のなかから、誰もがそれぞれ忘れがたい感銘をうけるに違いない。父の言葉のきびしさ、母親の温かい愛情、兄の祝福、どれにもかくべつ新らしい表現はなかった。けれども由紀にはそれがみな胸にしみとおるほど切実に聞え、とつぐという覚悟をあらためて心に彫みつけられたのであった。
ゆくさきには少しも不安はなかった。良人となるべき安倍休之助は二百石あまりのおなんど役で、金穀元締り方を謹直につとめており、温和なことにも定評があるし、老母ひとりしかいない家庭は穏やかさとつつましさそのものだという。