Classici giapponesi con furigana
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ますおとし
枡落し
山本 周五郎
Leggi 枡落し (ますおとし) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 33.765 caratteri · 67 schermate
おみきは五歳ぐらいから、酒の味に馴染んだものだ。父は女にも博奕にも手は出さなかった。母がどんな人だったかおみきは知らない、父はひとことも語らなかったし、近所の人たちも決して母のことを聞かせてはくれなかった。けれども、黙ってさみしそうに酒を飲んでいる姿を見ると、いつまでも父の心は母のことでいっぱいなのだ、としか思えなかった。
――おまえはおふくろにそっくりだ。
という父の口ぶりにも、膳の向うに坐らせて酒を啜らせたり、肴を喰べさせるようすにも、そこに亡き母の俤を追っているように感じられたものだ。
おみきが十六歳のとき、千太郎が養子にきまり、まもなく二人は祝言をした。彼は二十三歳、職人なかまのつきあいもせず、仕事だけに精いっぱいうちこんでいた。肉の緊った小柄な躯で、口かずが少なく、いくらかぶあいそなところがいかにも男らしくて、おみきも嫌いではなかった。
父は肝の臓が悪いそうで、医者から酒を節するように云われた、焼酎を薄めたもののほうがまだいいと。それから米のめしやうどんをやめて麦粥とか、鳥の卵などを常食にするほうがよいとも。しかし父は医者の忠告など聞くようすもなく、酒はますます量が増すばかりだし、制限された食物も好きなだけ喰べた。