Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ぬまふじん

沼夫人

泉 鏡花

Leggi 沼夫人 (ぬまふじん) di 泉 鏡花 (いずみきょうか) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 39.541 caratteri · 78 schermate

Aozora Bunko

一

一

「ああ、奥さん、」

と言った自分の声に、ふと目が覚めると……室内は真暗で黒白が分らぬ。寝てから大分の時が経ったらしくもあるし、つい今しがた現々したかとも思われる。

その現々たるや、意味のごとく曖昧で、虚気としていたのか、ぼうとなっていたのか、それともちょいと寝たのか、我ながら覚束ないが、

「ああ、奥さん、」

と返事をした声は、確に耳に入って、判然聞こえて、はッと一ツ胸を突かれて、身体のどっかが、がっくりと窪んだ気がする。

そこで、この返事をしたのは、よくは覚えぬけれども、何でも、誰かに呼ばれたのに違いない。――呼んだのは、室の扉の外からだった――すなわち、閨の戸を音訪れられたのである。

但し閨の戸では、この室には相応わぬ。寝ているのは、およそ十五畳ばかりの西洋室……と云うが、この部落における、ある国手の診察室で。

小松原は、旅行中、夏の一夜を、知己の医学士の家に宿ったのであった。

隙間漏る夜半の風に、ひたひたと裙の靡く、薄黒い、ものある影を、臆病のために嫌うでもなく、さればとて、群り集る蚊の嘴を忍んでまで厭うほどこじれたのでもないが、鬱陶しさに、余り蚊帳を釣るのを好まず。