Classici giapponesi con furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Leggi 金狼 (きんろう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 89.438 caratteri · 179 schermate
7
一友人より〉
葵は床の上へ坐りこむと両手で顔を蔽った。
あの晩、非常梯子をつたって出て行ったのは葵ではなかった。葵の母とも姉ともいうべきむかしの家庭教師、志岐よしえである。六月一日の銀行ギャング事件の迸を恐れて東京へ逃避し、三日のあいだ葵の部屋に潜伏していた。
葵にはそういう思想運動には同情も興味もない。ただよしえへの愛情のためにしたことだったが、かりにこれを久我に告白したとしても、その通りに信じてもらえるであろうか。また、たとえ、久我からどのように考えられようとも、もうしばらく、これを告白するわけにはゆかない。よしえの信頼だけは裏切りたくないのだ。
それにしてもこんな陰険な振舞をするのは誰だろう。……ふと、かんがえついた。西貝。そういえば、披露式の夜、葵にたいするそれとない無礼な態度、人殺しといわんばかりのあてこすりも、いまにしてみればその意味がわかるのである。
葵は床の上へ長く寝て眼をとじた。
だれか、扉をノックする。
7
神戸から帰ってくると、久我と葵は新聞記者の那須の紹介で、淀橋の浄水場裏にある〈フレンド荘〉という安アパートへひき移った。派手すぎる久我のやり方に不安を感じていたので相応にひきしめて暮すことは葵としてはむしろ賛成だったが、それにしても、このアパートはすこしひどすぎた。