Classici giapponesi con furigana
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さとう
麻布襍記 ――附・自選荷風百句
永井 荷風
Leggi 麻布襍記 ――附・自選荷風百句 (さとう) di 永井 荷風 (ながいかふう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 37.256 caratteri · 77 schermate
春雨の夜
雨戸がしまったので午後から降出した雨の音は殆ど聞えなくなった。
女中の知らせに老夫婦は八畳の茶の間へ来て、膳の前に置かれた座布団に坐ると二人ともに言合したように身のまわりを見廻した。
昨日まで――昨日の夕飯の時までこの八畳の茶の間にはもう一脚膳が出されてあったのだ。然し今夜はもうその膳は出されていない。寅雄という一番末の男の子は今朝米国へ留学に行った。
去年の秋三番目の女の清子が嫁に行くまで此の八畳の茶の間は時折さわがしいほど賑であった。寅雄と清子とは日頃仲がよかったので却てよく喧嘩をした。
清子が嫁に行くその前の年に生来病身であった二番目の娘が流行感冒で死んだ。その時から既に茶の間の膳は一つ減っていた訳であるが、その折には老夫婦はそれほど淋しい気にもならなかった。勿論娘の死を悲しみはしたものの其の悲しみは月日と共に諦のつく悲しみであった。また容易に他の事にまぎらされる悲しみであった。何故というに年中薬を飲みながら二十を越すまで生きていたのが、両親には寧ろ不思議に思われた位であったからである。家に残った三番目の清子と末子の寅雄が元気のいい笑声はいつも家中を賑にする力があったからである。