Classici giapponesi con furigana
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みなかみきこう
みなかみ紀行
若山 牧水
Leggi みなかみ紀行 (みなかみきこう) di 若山 牧水 (わかやまぼくすい) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 102.087 caratteri · 203 schermate
そうして私に並んで立ちながら、
「どうも貴方は豪気ですナ、私は始終この船には乗っているからだが、普通の人でこの荒れに酔わないとは珍しい、まったく豪気だ」
と讃める。そうなるとこちらも気を取り直さねばならず、暫く話しているうちにいつか嘔気をも忘れてしまった。老人は年六十七八、墨染の十得の長い様なものを着て、まだ斯んなに船の揺れなかった前にはちゃんと正座しながら茶道捷径という本を手提の上に置き、歯の無い声で高らかに読んでいたのであった。沼津本町の人、茶を教えに田子港まで行くのだそうな。ひとしく浪の面を見詰めながら並んで立っていると彼は口のうちで、然しかなりいい声で、「鳥も通わぬ八丈が島へ……」と追分を唄い出した。それが船の烈しい動揺につれては間々常磐津に似た節廻しにも移ってゆくのである。
そうしている間に船は八木沢、小下田、宇久須という様な幾つかの寄港場を悉く見捨て阿良里という港へ非常な努力で入って行った。この港はどの風にも浪一つ立たぬ附近唯一の良港であるという。成程小さくはあるが港らしい港だ。奥に入ってゆくと赤茶色の山の蔭に僅かに沖の余波を思わせる小波が立っているのみであった。