Classici giapponesi con furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Leggi ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) di 梅崎 春生 (うめざきはるお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 129.411 caratteri · 263 schermate
『三本の黒い縮れ毛の生えた、直径一糎ほどの痣が、この世のどこかに存在する。誰かの背中にきっと貼りついているのだ。その誰かというのは、あの猿沢佐介に違いない』
つまり、猿沢の背中に痣があるかどうか、ということが問題ではなく、痣があるのは猿沢の背中かどうか、ということなのです。言葉にすれば似たようなものですが、意味から言えばすこし違っているでしょう。
蟹江四郎は、猿沢佐介の裸の背中を、まだ見たことがありません。いや、見たことはあるかも知れませんが、どうもその印象が憶い出せないのです。夏ともなれば、暑いのだから、猿沢佐介だって肌を脱ぐだろう。そうだ。衣服を脱いでパンツひとつになり、庭の草花に水をやったり、体操や縄飛びなどをしているところを、たしかに見たことがある。そう思って、その印象を憶い出そうとするのですが、瞼に浮んでくるのは、猿沢の胸に濃く密生した胸毛の色とか、双腕のぐりぐり筋肉の形とか、そんなものばかりで、背中のことは全然浮んでこないのです。それはそうでしょう。人間というものは、交際や交渉の関係上、お互いの前面をしか眺めないもので、背面をしみじみ眺め合い、それを記憶にとどめ合うなどとは、めったにないことです。