Classici giapponesi con furigana
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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
Leggi 入江のほとり (いりえのほとり) di 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 25.430 caratteri · 50 schermate
三
辰男は雨戸を閉めて寝間へ戻ってからも、何となくもの哀れな気持がした。側の壁に懸けておきながら日ごろ忘れはてていたヴァヰオリンに目がついて、久しぶりで弾いてみたくなった。楽器を包んだ黄ろい袋は夜目にも目立つほど汚れていた。
山間の寂しい小学校にいた間、俸給の余剰を積んで購って、独稽古で勝手な音を出して、夜ごとにこれを弄んでいたことが、涙ぐまるるような追憶となって、乾いた彼れの心を潤おした。
「明日の晩にはぜひ弾いてみよう。春高楼を弾いてみよう」……彼れは新しい英字の変則な発音よりも、昔馴染のヴァヰオリンの変則な音色に、いっそう強く自分の魂が打ちこまれそうに思われた。
三
辰男の明方の夢には、蕨の萌える学校裏の山が現われて、そこには可愛らしい山家乙女が真白な手を露きだして草を刈りなどしていた。……と、誰かに呼びたてられたような気がして目を開けたが、左右の室には誰もいなかった。良吉はもはや出立したのかしらんと、急いで階下へ下りると、弟は竹の手のついた煙草盆を膝に載せている父親の前に不恰好なお辞儀をして、これから出かけようとするところだった。皆なが上り框に突立って見送っていた。