Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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げんかくき

幻覚記

豊島 与志雄

Leggi 幻覚記 (げんかくき) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 4700 caratteri · 10 schermate

Aozora Bunko

それからまた大人たちと一緒になって、家に帰ってゆく。

家に帰って気付いたのだが、私は千代子と笑い戯れてるうちに、大事な時計を落してしまった。ぴかぴか光っている美しい銀時計で、私には大変貴重なものだった。

その時の印象が、今でもはっきり頭に残っている。然し不思議なのは、当時私はそういう時計を持ってたかどうか疑問である。少くとも私は、それを探しに河原へ行った覚えはない。他の凡ては事実であるが、時計のことだけが不確実で、而もその印象が最も鮮明なのである。

時計だけを夢にみたのであろうか。

千代子は後に結婚したが、もう此世にいない。時計のことは、誰に語る由もない。

三

聖パウロは、ダマスクスへ行く途中の街道で、復活せるキリストに逢った。パスカルは、初冬の深夜、神と対面した。十九世紀の中葉、十三の少女は、ルールドの洞窟の中で、聖母の姿を見た――白衣をまとい、青い帯をしめ、念珠を帯にさげ、異様な光輝にかこまれていた。

そういう話は多々ある。ところで私は――。

もとの一高――今の農科大学と、帝大との間の狭い通りは、どうしてか非常に埃が多く、それに自動車の通行が頻繁だから、余り気持のよいところではない。