Classici giapponesi con furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Leggi 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) di 吉川 英治 (よしかわえいじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 193.050 caratteri · 383 schermate
雨の日も厭わなければ、雨天の日などは、かえって商いのあるものだと、さかんに奨められた。ぼくは神の救いに会ったような気になり、さっそく母へ話して、何とか保証金をこしらえてくれと頼んだ。
母は当惑顔だった。そんな金がいま工面のつくどころではない。いろいろ、思案のあげく、小島さんの小母さんへ母と共に融通を頼みに行ってみることになった。
その小島さんは、近くの官舎に住んでいた。税務監督局の課長さんであった。夫婦二人きりの家庭で、母とは針仕事の内職から知り合ったものらしい。常々、女の愚痴ばなしやら境遇などを語りあっていたものだろう。ひどく母に同情していた。ぼくの家へも暇があるとよく喋りに来、父の病床を覗いては、冗談を云って、人嫌いな父を笑わせたりして帰るのであった。他県から転任して来たばかりのせいか、人馴つこい奥さんだった。いや官吏の奥さんめいた気取りがちッともなく、からっとした陽気な婦人なのである。色が黒く、痩せ型で、三十がらみであったと思うが、決して美人の方ではない。故郷の静岡県吉原の田舎ことばまる出しで、その訛りと唇元に愛嬌があり、ぼくらが腫れ物あつかいにしている父も、この小母さんにかかると、どんなに毒づかれても、腹を立てないのが、ふしぎであった。