Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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だんがいのさっかく

断崖の錯覚

黒木 舜平

Leggi 断崖の錯覚 (だんがいのさっかく) di 黒木 舜平 (くろきしゅんぺい) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 12.483 caratteri · 26 schermate

Aozora Bunko

三

運わるく文学少女らしいのである。「お宮と貫一さんも、私たちの宿へお泊りになられたんですって。」

私は、しかし、笑うどころではなかった。うっかり吐いた嘘のために、気の遠くなるほど思いなやんでいたのである。言葉を訂正することなど、死んでも恥かしくてできないのだった。私は夢中で呟いた。

「今月末が〆切なのです。いそがしいのです。」

私の運命がこのとき決した。いま考えても不思議なのであるが、なぜ私は、あのような要らないことを呟かねばならなかったのであろう。人間というものは、あわてればあわてるほど、へまなことしか言えないものなのだろうか。いや、それだけではない。私がその頃、どれほど作家にあこがれていたか、そのはかない渇望の念こそ、この疑問を解く重要な鍵なのではなかろうか。

ああ、あの間抜けた一言が、私に罪を犯させた。思い出すさえ恐ろしい殺人の罪を犯させた。しかも誰ひとりにも知られず、また、いまもって知られぬ殺人の罪を。

私は、その夜、番頭の持って来た宿帳に、ある新進作家の名前を記入した。年齢二十八歳。職業は著述。

三

二三日ぶらぶらしているうちに、私にも、どうやら落ちつきが出て来た。