Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

Leggi 日本婦道記 (にほんふどうき) di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 10.743 caratteri · 22 schermate

Aozora Bunko

二

妻の唇にまつごの水をとってやった。もはやなにを思うこともなかった。妻の死顔はこのうえもなく安らかで、苦痛のいろなどはいささかもなかった。藤右衛門はしばらくのあいだ、祝福したいような気持で妻の面を見まもっていたが、ふと夜具のそとに手がすこしこぼれ出ているのをみつけ、それをいれてやろうとしてそっと握った。するとまだぬくみがあるとさえ思えるその手がひどく荒れてざらざらしているのに気づいた。妻の手を握るなどということはかつて無いことだった。だからいまはじめて触るように思い、その皮膚がそのように荒れているのをみつけたとき、藤右衛門はそれまでまるで知らなかった妻の一面に触れたような気がした。

「通夜は半通夜にする、通知にはそれを忘れぬよう、それぞれておちなくはからえ」

やがて彼はそう云って立った。

二

はなれの書斎へかえって、机の前へ坐ると直ぐ、彼はおちついた身がまえで校閲の筆をとりあげた。頭は冴えているし、心もしずかだった。ただひとところ、からだのどこかに蕭殺と風のふきぬけるような空隙がかんじられた。

弔問の客たちが来はじめたのはそれから一刻あまりのちのことだった。